2014年10月1日水曜日

過ぎ去りし夏。

彼は、アクセルをパーシャル状態から左コーナーをクリアしつつある状態で、出口方向を睨みアクセルを開け始めた。
徐々にアクセルを開けた頃、彼の目の前に、少し長めのストレートが現れる。
ライダーは『乗れている』と感じていた。
更にアクセルを開け、回転計が上がるに連れスピードメーターも上がっていく。
4速→5速→6速へシフトアップ。
ストレートの中程、次のコーナーを示す標識にライダーはチラリと目を遣る。
彼は、迫り来るコーナーに合わせ、6速→5→4速へとシフトダウン、恐らく回転計は4000rpmを指していただろう。
彼の耳には、心地よい減速サウンドが響いていた。
コーナー手前で、少しフロントブレーキを掛け更に減速しつつ車線のミドルを走行し、中速右コーナーに、愛車を傾け進入した刹那、対抗車がセンターラインをオーバーランで膨らんで来た。
ライダーは咄嗟に愛車を引き起こす。
間一髪、黒塗りの車両を交わすが、ライダーの想い描くコーナーリングは絵空事となりつつあった。
対向車を交わした時点で、ライダーのグリッピングポイントを過ぎつつある。
彼は、出口方向を睨みながら再び車体を傾ける。
アクセルはOFF状態にし、少しでも減速し右コーナークリアーを目指す。
更に愛車をフルバンク。
この時点で、ライダーの右足にステップを通じ振動が伝わって来た。
事実上、右ステップは路面を捉えていた。
彼の脳裏に「転倒?!」の文字が浮かんだと同時に、恐怖が乗し掛かる。
それでも、彼はコーナー出口を睨んだ。
睨み続けた。
もう、睨むしか方法は無かった。
「あと少しで車体を起こせる」と彼は思った。
「ほんの少しの辛抱!!」と自分に言い聞かせた瞬間、愛車のハンドルが軽くなったと同時に彼は『あっ!!』と思った時には、右手は路面に流され始め、その瞬時、彼は全身の力を抜く事を決意した。
力を抜いた彼の眼前には、シールド越しに流れるアスファルトとシールドを削る「ガゴォゴォ・」と鈍い音と同時に右膝を削る感触が伝わる。。
次に右肩が路面を捉え、滑りながら右肩を支点に彼の身体は左へブレイクダンスの様な形で一回転しながら後続車両が目に入る。
この時、彼は家族一人一人の名を呼びながら顔を思い出していた。
左に一回転した身体は次の瞬間、背中でアスファルトの感触を得て一瞬仰向け状態で青い空を見た。
彼は『空 青いな』と感じながら、他界した友人達の名を呼んでいた。
一瞬の仰向け状態から二回連続後転しながら、彼は『死ぬのか?』・・・『死んでたまるか!!』と気力が湧いてきた。
後転が終わるや否や彼の身体はセンターライン側に頭を向け側転を三〜四回転程しながら愛車が断続的では有るが視界に入る。
それは、右に倒れ横滑りを続けている。
彼の身体は側転が止まるが、上半身を起こした状態で愛車目掛けて滑って行く。
まるで、ランナーが塁に滑り込む状態で彼は愛車の流れる方向へと吸い込まれるように滑って行く。
しかし、愛車は今尚路肩へと滑り、コーナー出口付近に直立不動の道路標識の支柱に目掛けて衝突寸前だった。
その光景を見ながら、『あ〜、支柱に衝突して止まった!』と思った瞬間、両サイドカウルが大きく上下に膨らみ車体が浮き上がり止まった。
彼ば、その車両のシート目掛けて当たる寸前、スライディング状態で右へ180度 回転し背中からシートに体当たりし止まった。
その瞬間、背中に鈍い衝撃が襲った。
シートに寄り掛かる形で、息が出来ない。
数十秒経っただろうか。
その状態が続いたが乱れ呼吸法で、呼吸を安定に近づくと同時に手足の関節が動くか、骨折の有無の確認する。
大丈夫だった。
今までの光景を見ていた後続車のドライバーが駆けつけきて下さった。
ライダーの愛車を引き起こす補助をして下さりながら、オーバーランして来た車両は一時停車したが、そのまま走り出したと言う。
補助して下さったドライバーは、相手を追跡してあげるとおっしゃて頂いたが、ライダーはそれを丁寧にお断りした。
何故なら、追跡中に事故に遭遇する可能性もあるからだ。
ライダーの本心は追跡して欲しいかったが、追跡を断る事が最善であると思った。
その優しいドライバーにお礼を告げたのち、
ライダーは愛車を安全な場所へ移動し、ヘルメットを脱ぐと、蝉の声が大きく耳に入ってきた。
上を仰ぐと、澄み渡った青い夏の空が広がっていた。
愛車のエンジンは掛かるが、調子が悪い。
修理と時間が可なり掛かりそうだ。
事実上、私の夏は7月末で終わりました。
本当に死ぬかと思いました。(T . T)



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